なんとなく本屋さんに立ち寄ってみたら、川上未映子さんの新刊エッセイがもう並んでいて、うれしい気持ちになりました。読売新聞ウェブサイトに連載中のコラムの書籍化、第二段。


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買って、帰りの電車の中で早速開いてみたら、内容よりも先に文字の佇まいにはっとさせられた。黒じゃなくて、あれは何という色なんだろう、トーンの薄いこげ茶色。名前のわからない色をしたその文字の佇まいに、胸の奥をきゅっと掴まれた。この、本を開いた時のはっとする感じって、一体なんだろう。他では得がたい、ちょっと特別な瞬間のような気がします。
 

例えば、まだ誰も踏み入れていないまっさらな雪の上を歩き始める時の、第一歩とか。みかんの皮をむくときの、親指を差し入れたときの感触や音、匂いとか。その動作でしか味わえない、はっとさせるような感覚(茂木健一郎氏の言うところのクオリアってこういうことだろうか?)ってありますよね。未映子さんのこの本を開いたときにも、そういう感覚が立ち上がってきたのでした。


第一段の『発光地帯』も、やはり黒ではない、文字は青みがかった色をしていて、開くたびにはっとするものがある。本ってすごいなあと思う。電子書籍を否定するつもりはさらさらないし、紙の本ばかりがすばらしいわけではないと思うけど、本には本の、物質としてのかけがえのなさがあるんだなあと、改めてしみじみ。