仕事、しばらく忙しい日が続いて、チーム皆で22時すぎまで残業していたこともあった。
体力も落ちていたし、じっくりと本を読む時間をとれないさなか、
通勤時や昼休み中、ちょっと一息つけたときなどに、
池澤夏樹の詩集『この世界のぜんぶ』を開いては、一つ二つ詩を読んでみたりしていた。


この詩は、その中のひとつ。

自省


秋のこの時期になると
南の島でも海の色が変わる
海面で反射する光が減って
光は水の中深く深くまで潜り
明るい藍色に身を染めてから
また水面に上がってくる


風はひんやりとしてきたが
陽光はまだまだ熱く肌を焼く
海は静かに潮の模様をひろげ
空には少し雲も飾ってある


村に新しい鳥が到着したらしい
耳慣れない鳴き声が聞こえる


夜ともなれば満天の星


それで おまえはこれ以上
何を望むというのだ?


この詩を最初に読んだとき、季節はたしかに秋だったのに
これを書いている今は、もう冬だなって思う。
今年も秋は、お別れを告げることなく去っていったのだ。
(別れを告げてくれない季節は秋だけだと思う。)


それにしても、詩集を毎日鞄にしのばせているなんて
どこかの女学生みたいね!