長い終わりが始まる / 山崎ナオコーラ

長い終わりが始まる

長い終わりが始まる


 アパートへ着くと、郵便受けに電気代の請求書が入っていて、失恋した人からもまんべんなく徴収するのか、と電力会社のやり方に疑問を覚えた。髪をびりびり破いて、ドアを開けて、キッチンからベッドまで行く間にぽいぽいと、シャツだのキャミソールだのスカートだのブラジャーだのを落としていって、クーラーのスイッチを入れると、ベッドに倒れこんだ。タオルケットに包まって、ケータイの電源を切って、目をつぶろうとする直前に、カーテンの上を這っていく、髪の毛のような足に胡麻粒のような体の足長蜘蛛が見えたので、いやいやティッシュで足をつかんで、窓を細く開け、ティッシュごと外へ放り投げた。窓の隙間から、夏の青空が見えた。向かいのマンションの壁面に日光が当たっていて、全ての窓が光っていた。(p.88)